約束。』2002.03.24

 

 キキキィィィ――――――、ガタッ!!
 いつもの八戒の運転からは考えられない程の荒っぽさで、ジープは止まった。
「っ、死ぬかと思った……」
「つーかオレ死にそう……」
 悟空と悟浄が、それぞれコレ程かという程青い顔でリアシートから下りる。
 それもその筈、今まで運転していたのは、出発直前に「おい、アクセルはこれか?」などと今から考えれば鳥肌が立つくらいじゃ済まないコトを聞いてきたこの男。
「生きてたんだからイイじゃねェか」
 煙草に火を点けながら、三蔵は運転席から降りる。
「そういう問題じゃないですよ……」
 ナビシートから下りた八戒も、やはり少しふらふらしている。彼が「今日は次の町には着けませんから、この辺で野宿しませんか?」と、悟空と悟浄の悲鳴をかいくぐって叫ばなかったらまだあの死のドライブが続いていたかと思うと、改めて悟空と悟浄は震え上がった。
「運転した事ないならねェって言やぁいーのに」
「あ?」
「運転もできねェ野蛮人はヤダねェ」
「できてただろーが!!」
「できてるに入いんねェんだよ!!」
 悟浄にしてみれば、折角“カミサマ”との戦いで勝利したのに何故交通事故で死ななきゃならんのかと、そういったところだろう。当然だ。
「ハイハイ、その辺にして下さいね」
「八戒ぃ、オレ腹減ったぁ」
 止める八戒に、悟空は八戒の服の裾を引っ張って訴える。
「ホラ、悟空もこう言ってる事ですし」
 ジープから荷物を下ろしながら、3人に向かって言う。
「とにかく、みなさん手当てが先ですね。簡単な応急処置しかできませんけど……」
「充分だって」
「八戒ぃ、オレそれよりメシ食いたい」
「でも怪我が」
「あーヤダヤダ、体力バカのおサルちゃんは」
「お前が言えた義理か」
「あぁ!?」
「止めて下さいってば!」
 日が完全に落ち始めた森の中に、いつもの喧騒が響いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 数時間後、深夜。
 パチパチと、焚き火の枝が爆ぜる音が響く。すぐ横のジープでは悟浄と悟空が。焚き火を挟んで反対側では、寝袋に包まった三蔵が寝ていた。
(やっぱりみんな疲れてたんですね)
 あれだけの死闘の後なのだから、当然なのだが。
 そういう八戒も、疲れていない訳ではなかった。本当は今も眠くて、三蔵と同じように寝袋に包まって眠ってしまいたかったのだが。
 そうしないのは、微かな期待があったから。
 滅多に逢う事のできないあの人の気配を、今日、感じたから。
「―――――――――――!」
 ぱっと、左後ろの方の森を振り返る。
 姿は見えない。不審な音もしないし、気配もない。
 
 でも、いる。
 
 八戒は、寝袋から出て、森の中に向かって歩き始めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 三蔵達から少し離れると、わざを足音を立てながら歩いた。
 自分がココにいると、教えるように。
 滅多に逢えないのだから、一刻も早く会いたい。
 そして、少しでも長く、一緒にいたい。
「!」
 視線の端に、白い人影が見えた気がした。たった一瞬だったが……
「僕です」
 聞こえていると確信して、言う。
 それでも姿を現さないあの人に少し焦れながら、もう一度、言う。
「一人です」
「分かってるよ」
 瞬間、後ろから抱き締められる。いつもの事ながら、気配のかけらもなかった。
「っ」
「久し振りv」
「……だったら」
 もっと早く出てきて下さい、と言いかけた唇を塞がれた。
「っ、ん……」
 久し振りにされる口付けに、すぐに思考が蕩ける。
 力が抜けて崩れそうな八戒の躯を、白い影の男は抱き締める事で支えた。
「………は……」
 腕の中で躯を反転させられて、男と向かい合わされる。ゆっくりと口付けから解放され目を開けた八戒の瞳に写ったのは、漆黒の瞳と優しい微笑み。
「久し振り」
 もう一度、男は言った。
「―――――そう、ですね………んっ」
 今度は極上の笑顔で、八戒は答えた。それと同時に、また唇が塞がれる。
「っ、は……ん、んうッ……」
 息もつかせないくらいの、激しい口付け。本格的に足が震え始める。立っていようとしておかしなところ
に力を入れたため、今日受けた傷が痛んだ。
「痛い?」
 その様子に気付いた男は、顔にある傷に触れ、低く八戒に聞いた。
「ええ、まあ」
「折角綺麗な顔なのにね」
「そうですか?」
「そうだよ?」
 言って2人で、クスッと笑う。そして、また2人は唇を合わせた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「まだ、旅続けるの?」
「ええ」
「ボクのトコに来る気、ない?」
「貴方こそ、止めるつもりはないんでしょう?」
「まぁね」
 それは、滅多に逢えない2人が逢った時に交わされる質問。
 
「紅いオニーサンとかにイタズラされてない?」
「されませんよ」
「そお?」
 恒例にさえなってしまった、他愛もない話。
 
「―――そろそろ朝だね」
「そうですね」
「眼鏡取ってくれる?」
「はい、どうぞ」
 2人で寝転んでいた茂みから、2人で立ち上がる。木に遮られていた朝日がモロに顔に当たり、思わず目
を細める。
「じゃ、ボクはもう行くよ」
「……はい」
「淋しい?」
「……」
 微かに微笑う八戒が、とても愛しくて。抱き寄せて、いい香りのする髪の毛に顔を埋める。
「またね?」
「はい」
「じゃあね?」
「はい」
 少し体を離して、目を合わせる。そして、この、約束。
 
 
 
「次逢うまで、死なないでね?」
 
 
 
「……はい」
 
 
 
 それは、滅多に逢えない2人が逢って、そして別れる時の。
 恒例になってさえしまった―――――約束。
「じゃ」
 離れていく手は、どうする事もできない。八戒自身も、もうすぐ3人の元に帰らなくてはいけないのだし。
「……また」
 八戒の声に、男は振り返る。
 命懸の旅をしている自分なのだから、もしこれで最後になったとしても。
「また、逢いたいです―――――健一」
「……そうだね」
 せめて彼の記憶に残るのが笑顔の自分であるように。
 微笑って名前を呼ぶ、自分の姿であるように。
 そんな八戒に優しく笑いかけて、ニィ健一は白衣を翻して、消えた。
 
 
 
 
 滅多に逢えない2人が逢った時に交わされる約束。
 恒例にさえなってしまった、約束。
 それがあるから。
「また」
 一人、残った八戒は呟いた。
「逢いたい、です」
 約束が、あるから。きっと。
 八戒は周りを見まわして、ジープの方向を確認する。そろそろ3人が起きてしまうから、帰らなければ。
 ……約束が、あるから。
 きっとまた逢える筈。
「健一」
 小さく呟いて、八戒はジープの方に向かって歩き出した。
 
 
 
 
 
 
                                                       FIN
 
 
 
 
 
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後書きィ。
世にも奇妙なモノを書いてしまいました。
桃源郷ヴァージョンでの、28のラヴラヴ。
彼等の馴れ初めを小一時間ほど問いただしたい気分満載です。
 
ってゆーか。
スイマセン……ι 訳のわからないものを送りつけて。
始末に困りますよね。すいませんι お詫びのしようも御座いませんι
多分、入会記念です(しかも自分の)。
今となってはそれすら危ういですが………
 
では華臣、散ってきます(ぱぁん)。
 
 
 
 




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