歩き始めた日』2002.04.07

 

雨が降っていたんだ。
冷たくて痛くてうるさい雨が。
 
 
斜陽殿に連行されて数週間が立った。
すっかりここの暮らしにも慣れた悟能は
毎日悟空と遊んだり、時には三蔵の手伝いをしたりして
いままでにない毎日を満喫していた。
 
「悟能っ」
 
自室で本をよんでいると悟空が駆け込んできた。
 
「どうしたんですか、悟空」
 
「なんかさあ、三蔵が悟能連れてこいって。書斎にいるからさ」
 
「わかりました」
 
本のページにしおりを挟んで椅子から立ち上がった。
悟空につれられて廊下を歩き、三蔵の書斎をドアを開ける。
 
「じゃあ俺行くから」
 
「はい、ありがとうございました」
 
パタン、とドアの閉まる音がして三蔵が顔を上げた。
 
「悪いな。少し手伝ってほしい仕事があったんだ」
 
「ええ、かまいませんよ」
 
三蔵の机の横に置かれた椅子に座る。
ふと前の窓を見るとぽつぽつと雨が降り始めているようだ。
悟能は大きく目を見開いた。
 
「あ…め…」
 
「あ?雨降ってきたのか?」
 
「……雨…」
 
悟能の翠の目がゆらゆらとゆれる。
 
「花…喃…」
 
「悟能?」
 
「花喃…!!」
 
急に悟能は自分自身の体を抱えた。
小刻みに震えて目には涙が見え始めている。
 
「悟能?どうした悟能!?」
 
「花喃…花喃…ごめんね…」
 
「しっかりしろ悟能!」
 
「僕が…悪いんだよね…ごめんね…花喃…」
 
「悟能!!」
 
『花喃』という名前。
かつて悟能の愛した女の名。
双子の姉であったが確かに愛ししあっていた。
しかし花喃は死んだ。なのになぜ今悟能は
―この女の名を…
 
「花喃…」
 
「悟能っ!!」
 
ただ訳もわからずに泣き叫ぶ悟能を三蔵はとめることができない。
悟能の肩をしっかりと掴んで前後に振ってみるが
悟能の目は三蔵に焦点が合っていない。
 
「…くそっ…」
 
三蔵は掴んでいた両手を伸ばす。
 
「悟能」
 
「!?」
 
暖かい、温もりが悟能を包む。
目をつぶって三蔵は悟能を抱きしめているのだ。
腕を背中に回して悟能はすっぽりと包まれている。
突然の出来事に驚いたのか泣くのをやめた。
 
「…悟能」
 
「さんぞお…さん」
 
「お前がその『花喃』を愛しているのはわかる。
けどな、『花喃』は……もういねえんだよ…」
 
「…っ…」
 
「悟能、お前は新しい道を行け」
 
「…?」
 
「お前に新しい名前を授けろと三仏神から命が出た。
お前は今日から『猪八戒』だ」
 
「はっか…い」
 
「『花喃』を忘れろとはいわねぇ。
『猪八戒』として『花喃』を愛せ」
 
「『猪八戒』として…?」
 
「ああ」
 
 
***
 
 
 
「って言ったの覚えてます?」
 
ベットの中で八戒は悪戯そうに笑う。
隣で横たわる三蔵に向かって。
 
「忘れたな」
 
「嘘です、その顔は覚えてるでしょう?」
 
くすくす笑っている八戒。
それに対して三蔵はすごく不機嫌そうな顔をしている。
 
「あのときの三蔵すご〜くかっこよかったんですけどねえ…」
 
「うるせぇ」
 
眉間にしわを寄せたまま起き上がり、煙草に火をつける。
煙が天井に昇ていく。
 
「僕、あのとき『猪八戒』なったんですよね」
 
「ああ」
 
「あの時はわからなかったけれど…今やっとあの意味がわかった気がするんです」
 
「……」
 
「三蔵はあの時、僕に『猪八戒』として生きる意味をくれたんです。
『猪悟能』として花喃を愛していたらそれは『猪八戒』じゃなくて
『猪悟能』として生きているのとなんら変わりないですからね…」
 
「そうだな」
 
「でも…」
 
「あ?」
 
「今は愛してる人花喃だけじゃなくなっちゃいましたね、
どこかの金髪破戒僧さんにメロメロなんです。僕」
 
「………」
 
「ちょっと照れてます?」
 
「うるせえ!!」
 
八戒の幸せそうな笑い声は三蔵のキスによって止められた―
 
 
 
雨は、もう、止む。
 
 
END
 
***
 
はふ…(泣)申し訳ありません。
この小説見たかたにともろうは土下座して回ります。
ご連絡ください。(笑)
でも八戒さんの花喃と三蔵さまに対する愛情は違うものなんですよね〜
そこらへんがよくわかんないです…もっと精進します。(汗)
安純さま…本当にもうしわけありませんです!お目汚しいたしました〜…
 
 




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